『密教占星法と源氏物語』
こんにちは、生方吉子(うぶかたよしこ)です。
『密教占星法と源氏物語―源氏物語の見失われた構造』という本を読みました。
紫式部の書いた『源氏物語』が、実は宿曜経など、宿曜占星術をもとに書かれていることを明らかにした本です。
『源氏物語』のなかには宿曜の占いが登場しますし、『源氏物語』が書かれた平安時代後期は、陰陽師と並んで宿曜師が活躍した時代だと言われています。
宿曜占星術と『源氏物語』のあいだに、何らかの関係があることは認められるものの、全54帖にもおよぶ大作が、構成および構造的にも、宿曜占星術と密接な関係を持っていることがわかりました。
せっかく読んだので、開運ブログにまとめておきたいと思います。
8つの主題と5部構成
1981年に『密教占星法と源氏物語―源氏物語の見失われた構造』を著した大久保健治氏とは、ドイツ文学者であり、評論家です。
国文学の立場の人ではないのですが、言い換えれば、まったく異なる視点から『源氏物語』を見直すことができる人物であり、能力を持った方のようです。
大久保健治氏は、『源氏物語』を従来にない方法によって、全54帖を8つの主題(テーマ)と5部構成からなる物語であることを解き明かしています。
これを表にすると、以下のようになります。
主題 | 第1部 | 第2部 | 第3部 | 第4部 | 第5部 |
1.闘争 | 桐壺(1) | 葵(9) | 薄雲(19) | 真木柱(31) | 幻(41)、匂宮(42) |
2.咎(とが) | 箒木(2) | 賢木(10) | 朝顔(20) | 梅枝(32) | 紅梅(43) |
3.欺瞞 | 空蝉(3) | 花散里(11) | 少女(21) | 藤裏葉(33) | 竹河(44) |
4.子供への愛 | 夕顔(4) | 須磨(12) |
玉鬘(22) |
若紫上(34) | 橋姫(45)、椎本(46) |
5.女子養育 | 若紫(5) | 明石(13)、澪標(14) | 初音(23)、胡蝶(24) | 若紫下(35) | 總角(47)、早蕨(48) |
6.愚直 | 末摘花(6) | 蓬生(15)、関屋(16) |
蛍(25)、常夏(26) |
柏木(36) | 宿木(49)、東屋(50) |
7.悪心 | 紅葉賀(7) | 絵合(17) | 篝火(27)、野分(28) | 横笛(37)、鈴虫(38) | 浮舟(51)、蜻蛉(52) |
8.たくらみ | 花宴(8) | 松風(18) | 行幸(29)、藤袴(30) | 夕霧(39)、御法(40) | 手習(53)、夢浮橋(54) |
十二宮とは?
十二宮とは、宿曜ホロスコープにおける基本となるものです。
十二宮は、太陽と太陰(月)のそれぞれに6宮ずつ属します。
■太陽に属する6宮とは
太陽-獅子宮
水星(辰星)-女宮
金星(太白)-秤宮
火星(螢惑)-蝎宮
木星(歳星)-弓宮
土星(鎮星)-磨竭宮
の6宮であり、獅子宮が1番目の宮となります。
■太陰(月)に属する6宮とは
土星(鎮星)-瓶宮
木星(歳星)-魚宮
火星(螢惑)-羊宮
金星(太白)-牛宮
水星(辰星)-夫妻宮
太陰(月)-蟹宮
の6宮となっています。
太陽は男性、太陰(月)は女性を表すとも考えられることを、あらかじめ覚えておいてください。
十二宮それぞれの性質をみると
■獅子宮
星宿:4足、張宿:4足、翼宿:1足
勇猛果敢、しかも才略に富み、統率力に優れています。
軍人や警察官のような規律の厳格な世界で出世しやすく、組織的な場において活躍できるのが獅子宮です。
しっかり者で親に従順、金運もあります。
また口伝では、獅子宮の人は器用で、独立して一家をなす傾向があります。
働き盛りの時期に苦労しますが、晩年は安泰となります。
■女宮
翼宿:3足、軫宿:4足、角宿:2足
腹の中で考えていることが周囲からはわかりにくく、気まぐれなところがあります。
しかし思慮深い資質があり、ときにやや陰湿で粘着性が高い。
とくに女性を相手にする仕事で成功します。
また生活力があり、お金に不足しません。
晩年は末広がりの運勢を持っています。
女性の女宮は全般的に吉運があります。
■秤宮
角宿:2足、亢宿:4足、氐宿:3足
正直で誠実、正義感があり、周りから信頼されるバランス感覚に優れています。
有形無形の財産に恵まれており、財政管理に手腕を発揮し、財物を保管、運用に携わる仕事に適しています。
家庭内でも貯蓄ができ、財産を増やします。
しかし、運気が低迷するなどして悪いほうに傾くと、大きな犯罪を働くようなこともあります。
犯罪に手を染めなくても、見当はずれな思い込み、自信過剰で失敗する可能性も。
養子になると、婚家が興隆するといわれています。
■蝎宮
氐宿:1足、房宿:4足、心宿:4足
12宮のなかでは、あまり良くないとされていますが、自らの弱点を克服すれば、逆に人助けに力を発揮します。
蝎とは石の下にいる毒虫のことであり、その毒は薬にもなると考えられているからです。
運勢的には弱く、悪心を起こしやすく、妬みから他者に対して悪だくみをすることも。
短慮で我慢することが苦手、また嫉妬心が強く、執拗になりがちで、自己保身には過敏です。
医療関係に適しています。
■弓宮
尾宿:4足、箕宿:4足、斗宿:1足
綿密な計画を得意とし、謀りごとや企てに才能を発揮します。
福禄も備わっていて、組織のリーダーに適しています。
口伝では、運気は強いのですが、家庭運に恵まれず、人間関係で苦労することが多いとされています。
負けず嫌いであるため、良いアドバイスも批判ととらえてしまいがち。
忠告に耳を傾けたり、反省したりすることは苦手です。
職業としては、リーダーシップが取れるような仕事に適しています。
■磨竭宮
斗宿:3足、女宿:4足、虚宿:2足
磨竭宮の人は闘争心が強く、もめごとに手腕を発揮します。
近づいてい来る人の多くは、磨竭宮の人を利用しようという魂胆があります。
世間の分別や常識に反抗的な姿勢をとり、人の嫌がる職種に適しています。
短気を戒め、信仰心を篤くすれば、晩年には富裕になれるでしょう。
女性は多情である場合が多いため、男女関係に注意が必要です。
■瓶宮
虚宿:2足、危宿:4足、室宿:3足
瓶宮の人は、自己を鍛錬し努力する人物で、学識もあり、財運もあります。
何事も、やや挑戦的に過ぎる難点がありますが、難事(難しい場面)において、がぜん張り切ります。
悪くすると強情で、自我を押し通す自己中心的な人になりがち。
また、子どもとの関係は不幸になりやすい。
財運があっても、貯めるばかりで使い方がわからずに、かえって財を失ってしまうことも。
学問の道を究める研究者、芸術家、金融業や倉庫業などが適職とされます。
■魚宮
室宿:1足、壁宿:4足、奎宿:4足
学があり、こまかいことによく気がつき、律儀で忠実です。
リーダーとして、大衆の心をつかみ、掌握することが得意で、何をしても過失が少なく、大役をこなす力量があります。
組織に向いているため、官職において力量を発揮します。
子どもとの縁は薄く、とくに長男には恵まれません。
金運は良いほうで、かりに災難にあっても自然と消滅してしまうような徳を持っています。
もし災厄にあっても、時をまてば、かえって好結果に転じます。
■羊宮
婁宿:4足、胃宿:4足、昴宿:1足
羊宮の人は、愛想が良く、善良な人が多いのですが、本能のままに生きるようなところがあります。
そのため、誘惑に弱く、快楽に溺れ、酒色の災厄が絶えない人も少なくありません。
弁舌がさわやかであるにもかかわらず、角のある言葉を使い、物議をかもすことも多いのですが、本能のままに思いついたことを言っただけで、本心は悪気がありません。
また、恥辱にもよく耐え、辛抱強いところがあり、用心深く、人間の本質を見抜きます。
人事関係のほか、営業職や、食品・料理関係の仕事に適しています。
■牛宮
昴宿:3足、畢宿:4足、觜宿:2足
牛宮の人は、物心ともに豊かな人というイメージですが、自信家な人も多く、ハナにつくという資質を持っています。
金運、友人に恵まれ、周りから尊敬を集めます。
健康で長寿ですが呼吸器系に注意が必要です。
農業や畜産のように生き物を扱う仕事、または専門職のような、じっくりととりくめるような仕事が適しています。
■夫妻宮
觜宿:2足、参宿:4足、井宿:3足
夫妻宮は、婬宮とも男女宮ともいわれます。
子だくさん、子煩悩とされています。
いつまでも若々しく、正直で快活、無邪気で、人々から愛されますが、これが裏目にでるとわがままで聞き分けがない人と見られてしまいます。
内側で管理するような総務、または財務関係の仕事に適しています。
また、教育や育児なども適職といえます。
■蟹宮
井宿:1足、鬼宿:4足、柳宿:4足
頭の回転が早く、明晰で、理詰めの話し方には説得力があり、12宮のなかで最も弁舌家は蟹宮の人といえるでしょう。
紆余曲折の波乱の人生を送る人が多く、蟹の横歩きのように、自分の生き方を変えることができません。
しかし、観察力・洞察力に優れているため、ジャーナリストや研究者としては有能です。
ときに悪巧みにかけて異才を発揮します。
弁舌家ゆえ、弁護士や裁判官など、司法関係の仕事も適しています。
8つの主題と十二宮の対応
8つの主題と十二宮は、次のように対応しています。
1.闘争-磨竭宮
2.咎-夫妻宮
3.欺瞞-蟹宮
4.子供への愛-獅子宮
5.女子養育-女宮
6.愚直-秤宮
7.悪心-蝎宮
8.たくらみ-弓宮
8つの主題の多くが、太陽に属する6宮であることがわかります。
『源氏物語』が、磨蝎宮の闘争からはじまり、夫妻宮の咎、蟹級の欺瞞とつづき、8番目の弓宮のたくらみで第1部が終わり、ふたたび闘争から第2部がはじまっていくのです。
光源氏は太陽だから獅子宮
さらに、人間関係も、この十二宮に置き換えられています。
まず、主人公である光源氏は、光り輝く貴公子という表現から太陽をあらわし、獅子宮となります。
光源氏の正室である葵の上は、獅子宮の反対側にある瓶宮であり、反対側にあるため、反発し合うことになります。
空蝉は、瓶宮のとなりの魚宮であり、朝顔の姫君も同じ魚宮です。
その隣の羊宮には、夕顔、花散里、女三の宮。
牛宮には、桐壷、藤壺、若紫(紫の上)、明石の姫君、玉鬘が含まれます。
桐壷、藤壺、若紫(紫の上)が同じ牛宮ということは、同じような運命を持った、同じテーマを生きる人物として描かれていることが、『源氏物語』に詳しくない者にも、なんとなくわかります。
夫妻宮には、末摘花のほか、軒端萩、源典侍。
蟹宮には、六条御息所、朧月夜の君、明石の上。
瓶宮から蟹宮までは、太陰(月)に属する6宮であり、光源氏と関係のある女性たちが、ここに含まれています。
そして、獅子宮は蟹宮は、隣り合っており、このことから光源氏が、多くの女性と関係を持つこと=アクセスルートを持つことを意味していると解きます。
さらに、物語を構成する上で、光源氏と最も密接な関係にある牛宮に属する女性たちが、重奏低音のように登場しているというのです。
十二宮なのに8つの主題なのはなぜ?
著者である大久保健治氏は、最後に、十二宮なのに、なぜ8つの主題しかないのか?という疑問にも回答しています。
それは、密教における胎蔵界曼荼羅と関係があるというのです。
曼荼羅には、金剛界と胎蔵界のふたつがあります。
金剛界曼荼羅は、「金剛頂上」に基づいてつくられたもので、理論的で抽象的、物質的、男性をあらわしていますが、胎蔵界曼荼羅は、「大日経」に基づいており、胎蔵とは子宮を意味します。
胎児が子宮に守られて育つように、大日如来の慈悲の心に育まれ、悟りに至る過程を図示していると言われています。
つまり、胎蔵界曼荼羅は女性であり、大日如来を囲む中台八葉院(四如来と四菩薩)が、曼荼羅の基本原理となっています。
そして、中台八葉院を取り囲む5層の神仏群から、胎蔵界曼荼羅が形作られていることから、紫式部によって8つの主題と5部構成という『源氏物語』が生み出されたのです。
著者の大久保健治氏は、『源氏物語』は根底的に女性的な作品であり、女性が、女性のために書いた、女性についての物語であると結論づけています。
『竹取物語』が原型
『源氏物語』が宿曜を取り入れ、綿密に計算された物語であり、文字による胎蔵界曼荼羅であるわけですが、その構造の原型は『竹取物語』にあると説明しています。
その構造上の特性については、ここでは説明しませんが、『竹取物語』が十二宮それぞれの性質などを、数字や言い換えなどの言葉遊び的な面で対応させていることを、詳しく開設しています。
紫式部は、『竹取物語』をはじめとする物語を研究し、そこに宿曜占星術、密教を取り入れ、さらに構造的には胎蔵界曼荼羅を意識して、一気に書き上げたのではないか、と推論しています。
このような貴重な論文が、国文学者から出なかったためにほとんど顧みられていないのかもしれませんが、密教と宿曜占星術が、平安後期において大きな影響を与えていたことが、よくわかります。
占いが歴史に影響を与えていることは、明らかな史実ですので、歴史を占いで検証することにも意味があると、生方は考えています。
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