陰陽道と聞くと、陰陽五行説をもとに発達した宗教のように考えがちですが、最近の研究では「陰陽道」という言葉は日本にしかなく、日本国内で独自に発達した思想であり、呪法であり、祭祀法であると考えられています。

そもそも陰陽道の基礎となったのは、天武天皇が設置した「陰陽寮」です。

陰陽寮とは、暦をつくり、時間を管理する機関で、天体観測を行い、天体の動きを解読する国家公務員がいました。それが陰陽師です。

天体が異常な動きをしたり、日食や月蝕が起こったり、大規模な自然災害があったりすると、それは天皇や国家の徳がなくなったからだという思想が背景にあります。

これは、儒教の伝統的な思想として知られる易姓革命です。

易姓革命では、君主（天皇）は天意に沿った善政を行わなければならず、もし君主としてふさわしくないと判断されると天命は改まり、王朝の交代が起こるというものです。

これを拡大した董仲舒は、自然現象も君主の徳の一部として考え、天と人との間には共通して存在する陰陽の気があり、君主が不徳で失政を行えば民衆の不満が陰陽の秩序を乱し、それが天に感応して災害を起こして君主を咎め注意を促します。

君主が失政を改めない場合は、天が滅ぼすと説きました。

つまり、自然現象を暦という形にして天皇は把握していなければなりませんでした。

現在でも九星気学の暦には、夏の土用に二の丑がある年は酷暑で冬は寒さが厳しいと書いてあったりします。

暦は、天皇しか作れないもので、国家の最高機密でもありました。

その陰陽寮の国家公務員たちは、天体を観測し時間を管理するだけでなく、そこに道教の呪術的側面を取り入れた密教などの要素を次第に取り入れ、平安後期には陰陽道という思想を形作っていきました。

陰陽寮はそもそも国家鎮護が目的で設置されたのですが、平安時代後期の王朝文化はなやかな時代になると、藤原氏による摂関政治がはじまり、貴族の力が天皇の力を凌駕するようになります。

藤原氏を中心に、本来は国家鎮護や天皇のために行われていた呪術や祭祀を、貴族が個人的に流用するようになっていきます。

ここに陰陽師・安倍晴明が活躍する素地ができてきます。

国家公務員である陰陽師の、隠された秘術を私的流用するようになったわけです。

そして、それらの秘術は当然のことながら民間に流出し、法師姿をした民間の陰陽師・陰陽法師が登場します。

民間に流通しだすと、陰陽道の思想や呪法、秘術や祭祀法は、国家レベルの問題解決から庶民のお悩み解決まで引き受けるようになります。

それを行うのが国家公務員なのか、民間人なのかの違いになっていきます。

戦国時代には、戦国大名のもとにさまざまな呪術者が戦略家（軍配者）として雇われるようになります。

天体観測の技術と呪法の両方に通じた軍配者は、合戦をリードしていたのです。

鎮宅霊符神は、推古天皇の時代に百済から渡来した聖明王子と琳聖太子が伝えたとされています。

その後は廃れていた鎮宅霊符神を、安倍晴明が復興したとされ、密教や修験道にも影響を与えました。

楠木正成、上杉謙信、豊臣秀吉などが戦勝祈願の一環として信仰していたといわれています。

鎮宅霊符神は、周易の八卦と六十四卦を合計した72種類の呪法を持つ霊符の神として民間にも普及しました。

江戸時代には、延命長寿、富貴の神として信仰を集めるようになります。

鎮宅霊符神は北斗七星を神格化した妙見菩薩と同一視されることが多く、妙見菩薩を祀っているお寺には、鎮宅霊符神がいっしょに祀られている場合があります。

安倍晴明が寿命を悟り、日ごろ用いていた卜筮の危惧を泉州堺の四辻に埋めたという伝説があります。

この辻で道行く人の言葉を聞いて占うと、吉凶がよく的中するという伝説があります。

この方法は、日が暮れてから四辻に立ち、普段から進行している神仏を祈念して

「行く人の世辻のうらの言の葉に、うらかたしらせ辻うらの神」

と３回となえてから、通行人の話のやりとりを聞いて、自分のことに当てはめて占います。

通行人は二人連れ以上で、話をしながら歩いている人たちを選びます。

２回まではやりすごし、３回目で占うのが正しいやり方です。

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